短歌の世界                                                                   

(1)石川啄木 『一握の砂』                                                


東海とうかい 小島こじまいその 白砂しらすな
われ
きぬれて 蟹かにとたはむる
いたくびし  ピストルでぬ
砂山すなやまの 砂を指もて りてありしに
いのちなき 砂のかなしさよ
さらさらと 
にぎれば指の あひだより落つ
大(だいという 字を百あまり 砂に書き
死ぬことをやめて 帰り
きたれり
たはむれに 母を背負せおひて
そのあまり 
かろきに泣きて 三歩あゆまず
草にて おもふことなし
わが
ぬかに ふんして鳥は 空に遊べり
なにとなく 汽車に乗りたく 思ひしのみ
汽車を
りしに ゆくところなし
高きより 飛びおりるごとき 心もて
この一生を 終るすべなきか
しっとりと 水をひたる
海綿
かいめん
の 重さに似たる 心地ここちおぼゆる
はたらけど はたらけどなほ) わが生活くらし楽にならざり
ぢっと手を見る
青空に 消えゆく煙 さびしくも 消えゆく煙
われにし似るか
ふるさとの なまりなつかし
停車場ていしやばの 人ごみの中に そをきにゆく
かにかくに 渋民村しぶたみむら は恋しかり
おもひでの山 おもひでの川
やはらかに 柳あをめる 
北上
きたかみ
の 岸辺きしべ目に見ゆ 泣けとごとくに
馬鈴薯ばれいしよの うす紫の 花に
雨を思へり 
みやこの雨に
ふるさとの 山に向ひて 言ふことなし
ふるさとの山は ありがたきかな
うれひ来て 丘にのぼれば
名も知らぬ鳥 
ついばめり 赤きばら