ミュージカル映画の世界                                                                                                                                    

近頃と異なり,昭和50年代より前ですと,ニューヨークブロードウエイでミュージカル観劇というマネは普通の人には難しかったですね。  必然的に我々一般人は,ミュージカル映画でミュージカルに接することになっていました。
  アメリカはオペラ不毛の国でしたが,ミュージカルという独特の芸術/文化が愛好されてきました。
何しろ,第二次世界大戦のさなかに,『On The Town』という水兵さんのミュージカルがつくられるよう国ですから,日本とは国力の余裕度が比較になりません。
この作品は,1949年には『踊る大紐育(ニューヨーク)』という邦題でオールカラーで映画化され,日本でもかなり評判 :特にミュージカルでのダンスの凄さが: になったものです。 ジーン・ケリーフランク・シナトラが主演という,とんでもない配役です。 ストーリーは全く覚えていないが軍艦の上で歌って/踊るんですから全く度肝を抜かれます。
 1952年には,土砂降りの雨のなか傘を持ちながら歌い/踊るシーンが大評判になった『雨に歌えば』が映画化され,これも日本でも大ヒットしました。 ジーンケリーの最高傑作でしょう。 『That's Entertainments』という大ヒットしたサワリ集映画でも,中心となるシーンですね。
踊りのウエートの大きいミュージカルが,次第に音楽とストーリー中心の本格的なミュージカル映画に移行して行くのですが,そこで真っ先に思い浮かぶのは,1958年の『南太平洋』ですね。 このミュージカルは,
作曲リチャード・ロジャース、作詞オスカー・ハマースタイン2世という黄金コンビでつくられた名作で,この後,この二人は次々と歴史に残る作品を世に送り出しました
1956年の『王様と私』もこの二人の作品ですが,どちらかというと主演のユル・ブリンナーデボラ・カーの印象が強く印象に残ります。 特に,これでアカデミー主演男優賞をゲットしたユル・ブリンナーは,剃りあげた頭のアジア系の血を引き継ぐ顔つきで大変大きな存在感でした。 ところで,日本では1996年周防正行監督が “Shall We ダンス?” という映画を作り,大ヒットしました。主題歌に使われたのは『王様と私』の中で歌われた“Shall We Dance?” です。
1965年には,『サウンド・オブ・ミュージック』が映画化され音楽担当の二人はミュージカル映画の頂点を極めたといえます。
ほぼ同じ1964年には『My FairLady』が製作され,口(クチ)パクで主演のオードリー・ヘップバーンが有名で,実際に歌を担当したジュリー・アンドリュースは同年のウオルト・デイズニー社製作のMary Poppins』での主演でアカデミー主演女優賞を受賞した。 Mary Poppins』は,シャーマン兄弟が音楽を担当し,このあと兄弟は次々とヒット作を送り出すことになる。
絶対に忘れてはならないのが,1961年製作の『West Side Story』でしょう。  クラシック界の巨匠レナード・バーンスタイン作曲の素晴らしい音楽と,従来のミュージカルとは全く異なると言っても良い,激しいダンスは日本でも空前のヒットにつながった。  ヒット曲は多いが,特に ”America” という曲は五拍子という珍しい拍子が特徴の名曲でした。   五拍子は三拍子と二拍子を併せ持つ変形リズムで,モダンジャズの名曲 ”Take Five” やチャイコフスキーの第六交響曲“悲愴”の第二楽章でも使われていた。   さて話しを『West Side Story』
に戻しましょう。この映画でアカデミー助演男優賞を受賞したジョージ・チャキリスは日本の若い女性たちを虜にしましたね。 この当時,ポップス系の歌を歌う日本の歌手(特に女性歌手)の多くが,二言目には ”これからミュージカルを目指したい!” と言っていたのが思い出される。 劇団四季など現在の劇場ミュージカルに親しんだ今の日本の観客たちは,POPs歌手が安直にミュージカルを目指すなどと発言する時代があったこと自体信じられないでしょう。
毛色の違ったところでは,1964年のフランスの作品『シェルブールの雨傘』は,美しい主題歌が印象深い作品であった。 テレビで放映されたのを見たが,セリフまで全て歌なのは,若干異質。 やはりフランスは歌劇の国なんでしょうね。
さて70年代以降も,連綿とミュージカルの歴史は続くが,小生自身の興味が薄れた為か,それとも社会現象を引き起こすような作品に巡り合わない為か,これ以降は記載の知識も元気もありません。 そういえば口(クチ)パク映画への批判が根強く,今はミュージカルといえば日本でも劇場ミュージカルということになりましたね。
 劇団四季の『Cats』が,いよいよフィナーレというので昨年末,家内と一緒に見に行きました。  歌もダンスも素晴らしいかったですよ。  残念なのは,良く知られた曲は,世界的にヒットした ”Memory” 一曲という現実ですね。   2時間近い中で,知っているのが一曲というのは,やはり作詞家作曲者の力不足なんじゃないでしょうか。
あと,音響が素晴らしくガンガンなので,メロデイー志向の自分には疲れましたね。   ストーリーも ”Why Cats?” という妙な印象だけが残りましたね。批判的なことばかり書きましたが,でも予想よりずっと完成度が高く,エンターテイメント性も充分で,とても面白かったですよ。
  変形のミュージカル映画でヒットのメリル・ストリープが主演の『マンマ・ミーア』を見てきました。これは前述のCatsの正反対の路線のミュージカル映画の一種です。映画で使用されている歌は全て,かつてスエ−デンのポップグループABBAが歌って大ヒットした曲がそのまま用いられているのですから!  ストーリーは能天気な学芸会のようですが流れる曲がいずれも我々熟年者にとって耳に馴染んだ曲なのでエンタテイメント性は充分です。やはりこれは最近のミュージカル作曲家の力不足を逆認識する作品といえますね。 


 例によって,以下にミュージカル映画のデータベースを纏めておきます。  70年代以降で印象的なものはありません.

題名(原題) 映画化 作詞家・作曲家 キャスト 有名な曲
踊る大紐育
On the Town
1949年
MGM社
原作は作曲レナード・バーンスタイン
映画では大幅に他の作者の曲に変更
ジーン・ケリー
フランクシナトラ
雨に唄えば
Singin' in the Rain
1952年
MGM社
詩:アーサー・フリード
曲:ナシオ・ハーブ・ブラウン
ジーン・ケリー
デビー・レイノルズ
Singin' in the Rain
南太平洋
South Pacific
1958年 詞:オスカー・ハマースタイン2世
曲:リチャード・ロジャース
ロッサノ・ブラッツィ
ミッチー・ゲイナー
ジョン・カー
Some Enchanted Evening
Bali Ha'i
A Wonderful Guy
Happy Talk
王様と私
The King and I
1956年
20C-FOX
詞:オスカー・ハマースタイン2世
曲:リチャード・ロジャース
ユル・ブリンナ-
デボラ・カー
リタ・モレノ
Shall We Dance?
サウンド・オブ・ミュージック
The Sound of Music
1965年
20C-FOX
詞:オスカー・ハマースタイン2世
曲:リチャード・ロジャース
ジュリー・アンドリュース
クリストファー・プラマー
Do-Re-Mi「ドレミの歌
The Sound of Music
Edelweiss
Climb Ev'ry Mountain
My Favorite Things
マイ・フェア・レディ
My Fair Lady
1964年
W-Bros
アンドレ・プレヴィン オードリー・ヘプバーン
レックス・ハリソン
I Could Have Danced All Night
Get Me To The Church On Time
On the Street Where You Live
The Rain In Spain
Wouldn't It Be Loverly?
Show me
メリー・ポピンズ
Mary Poppins
1964年
W-Disney
ロバート・B・シャーマン
リチャード・M・シャーマン
ジュリー・アンドリュース Chim Chim Cher-ee
Supercalifragilisticexpialidocious
Feed the Birds
A Spoonful of Sugar
ウエスト・サイド物語
West Side Story
1961年
U-Artists
詩:スティーヴン・ソンドハイム
曲:レナード・バーンスタイン
ナタリー・ウッド
リチャード・ベイマー
ジョージ・チャキリス
リタ・モレノ
Tonight
Maria
America
Cool
Somewhere
シェルブールの雨傘
Les Parapluies de Cherbourg
1964年
フランス
ミシェル・ルグラン カトリーヌ・ドヌーヴ
チキ・チキ・バン・バン Chitty Chitty BangBang 1968年
イギリス
ロバート・B・シャーマン
リチャード・M・シャーマン
ディック・ヴァン・ダイク