『雑学:戒名の世界』                                    

歳を重ねると肉親・親族などを喪うことが自然に増えてきます。 死去に直面すると役所への届出,葬儀業者との葬儀打ち合わせ,お寺との交渉,現役の場合は職場への連絡,葬儀の下働きをお願いする町内関係者との打ち合わせ,葬儀の案内,予算の工面等等,待ったなしの状況が続き死者の逝去を悼む心の余裕も,なかなか持てなくなります。  そう頻繁に経験することはないだけに地域特有の葬儀の進め方,お寺との交渉など年長者に相談に乗ってもらわないと判断に困る状況も発生します。
中でも『お布施』や『戒名』に付いてかなりの費用が掛かるが定価がなく根拠不明の相場というものがあると云われており対応に困る場合が多いようです。
そもそもこの『戒名』とはどういうもので,実際のところ戒名料はどのように決まっているのでしょうか?

自分が必要になる事態も遠くない将来かも知れないので,例によって雑学の一つとして調べてみました。


本来の戒名とは
 『授戒は俗界をはなれて仏門に帰入せしめる作法であり,戒名は受戒した仏弟子を表示する永遠の法号である』
                山田恵諦著『葬式と戒名のつけ方』より
 『戒名とは,もともと仏教において修行に必要な規律・戒律を授けた際に与えられる出家者の名前である』
                 藤井正雄著『戒名のはなし』より
     戒:仏教の信仰者が修行する際に自主的に守ると定めた誓い
     律:仏教集団に課せられた規則(組織のルール)
     授戒:仏弟子に戒を授けること    受戒:出家した仏弟子として戒を授かること
     戒名:仏教の信仰者となった証として受戒者に授けられるもの
現実実態の戒名は
     一般の人が臨終のあとに出家者として付けられる名前  →  仏教式の葬儀の対象となる死者に与えられ名前  →  更に『死後の勲章※』とも捉えられる
                       ※宗教学者 山折哲夫の指摘
     ・絶対平等を目指す仏教の理念とは異なり,現実の戒名にはそれ自体に明確なランクがある
     ・ランクは明確にあるが死者につけるルールは無いので,高位の戒名を高価で寺から授かる・寺が高価で授けるという実態が横行している
       → ルールがないということは 
             ◎葬儀に際し戒名が無くても本来は問題ない
             ◎生前に自分で決めたり,残された家族が考えても本来は全く問題ない
     ・そもそも死後の戒名は仏教では触れられておらず,他の仏教国にない日本独自の制度である
      ただし日本独特のその制度は変化しながらも伝来仏教とともに約1,000年近い長い歴史があり現在も定着している

戒名・法名の形

     『○○院△△××居士(大姉)』

     ○○院=院号  院殿・院
                院号がつくと一般に立派な戒名と見なされる 院殿は社会的に際立って立派な人に授けられる
                   ○○には個人の名前・仕事・業績・性格などが頻用される
       △△=道号     △△には年齢季節や自然界のものが頻用される
      居士(大姉)=位号 大居士・居士(大姉)・信士(信女) 子供幼児には,童子(童女)・幼子(幼女)
                   居士がつくと一般に立派な戒名と見なされる 大居士は社会的に特に立派な人に授けられる
      ××=(狭義の)戒名・法名  ××には個人の名前の一字(またはその音の字)が頻用される
     『△△××居士(大姉)』=基本戒名

 ◎『三選三除の法』
      三選(文字を選ぶ3原則) 熟語の善悪 : 仏教の精神にかなった文字
                      音便の可否 : 声に出したときに響きの良い文字
                      年齢の応否 : 個人の没年齢にふさわしい文字
      三除(文字を除く3原則) 奇怪な難字 : 普段使われず,読みも難しい文字
                      無詮の空字 : 無意味な文字
                      不穏の異字 : 発音が好ましくない文字
                      蛇,豚など動物にかかわる文字・畜・醜・臭・僕・殺・非・・・などの忌み文字も使わない
 ◎宗派の規定
     浄土真宗   本来は『釋(釋尼)××』のみ(浄土真宗では戒名ではなく法名という)
     浄土宗         の字を含む
     日蓮宗         の字を含む

 これらのことを理解して,故人にふさわしい文字を選べば立派な戒名が自分でも出来る
 今はネットの時代で,インターネットで戒名を作成するホームページもあります


戒名料の相場(戒名料+お布施)
 戒名料には決まった価格がないので比較が困難であるがネットで調べた幾つかのデータを比べてみる
   仏壇屋『仏壇堂』
         ○○院○○居士(院大姉):150~200万円
         ○○院○○信士(院信女): 60~120万円
             ○○信士(信女)  : 40~ 50万円
        浄土真宗の場合
         ○○院釈○○居士(院釈大姉):80~150万円
             釈○○信士(釈信女)  :40~ 50万円
   古谷式典(株)
        ○○院○○居士(院大姉):100万円~
        ○○院○○信士(院信女): 30(50)~80~万円
             ○○居士(大姉) : 50~80万円
             ○○信士(信女) : 30~50万円
        浄土真宗の場合
         ○○院釈○○居士(院釈大姉):50万円~
             釈○○信士(釈信女)  :20万円~
   実際は地域や檀家の格お寺の方針などなどにより大差があると言われている



                                         有名人・著名人の戒名・法名

俗名 戒名・法名 備考
足利尊氏 等持院殿仁山妙義大居士 初めての院殿号らしい
織田信長 惣見院殿贈大相国一品泰巖尊儀 たしかに大層立派な感じがする
豊臣秀吉 国泰裕松院殿霊山俊龍大居士 たしかに大層立派な感じがする
徳川家康 東照大権現安国院殿徳蓮社崇譽道和大居士 最も長い戒名?
西郷隆盛 南州寺殿威徳隆盛大居士 南州・隆盛
福沢諭吉 大観院独立自尊居士 独立自尊はいかにも福沢諭吉らしい
宮本武蔵 新免武蔵居士 祖父方の苗字が新免
近藤勇 貫天院殿純義誠忠大居士 新撰組に純義誠忠はぴったり
吉田茂 叡光院殿徹誉明徳素匯大居士 政治家は院殿大居士を好むのか
田中角栄 政覚院殿越山徳栄大居士 政治家は院殿大居士を好むのか
池田勇人 大智院殿毅誉俊道勇人大居士 政治家は院殿大居士を好むのか
芥川龍之介 懿文院龍之介日崇居士 いかなる文かは分からない
大佛次郎 大佛次郎居士 本来はこれも正しい命名
幸田露伴 露伴 本来はこれも正しい命名
夏目漱石 文献院古道漱石居士 文学の文は小説家にふさわしい
川端康成 文鏡院殿孤山康成大居士 ノーベル賞の作家は院殿大居士がふさわしいらしい
松本清張 清閑院釈文帳 清が院号に帳(張)と文が戒名に
山田風太郎 風々院風々風々居士 多分自分で命名    これも立派な戒名
黒澤明 映明院殿紘國慈愛大居士 映画の映の字が入っている
手塚治虫 伯藝院殿覚圓蟲聖大居士 聖である
石ノ森章太郎 石森院漫徳章現居士 石森章と漫の字が使われている
美空ひばり 茲唱院美空日和清大姉 いかにも歌手らしい
宮脇俊三 鉄道院周遊俊妙居士 鉄道物の著作が多い作家   本人か家族が命名らしい
双葉山 霊山院殿法日定大居士 世紀の大横綱は院殿大居士である
力道山 大光院力道日源居士 国民的ヒーローだったが戒名は平凡
ジャイアント馬場 顕峰院法正日剛大居士 でかいので大居士か
大松博文 最勝院克堂博文居士 金メダルの監督には最勝がふさわしい

                                                      http://www.web-toku.com/~ihai/data.html ほかより抜粋


参考資料  島田裕巳著
戒名は,自分で決める